あ行か行さ行た行な行/は行/ま行や行ら行
スペースオペラ用語辞典/は行

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倍力機構[ばいりき・きこう](参考)

  1. 装着した人間の力を数倍に高める機能を持ったメカニズムのこと。「宇宙の戦士(byR.A.ハインライン)」に登場するパワード・スーツに組み込まれているメカニズムとして余りにも有名。

  2. メカニカルサーボの一種であろうから、よほど剛性の高い構造になってないと高速な応答は望めない(剛性不足の部分がダンピング要素になるため)と思われる。パワード・スーツのごつい外観は防弾性能のほかにスーツ自身の剛性・応答性を高めるためにも必要なのだろう。

  3. お江戸や明治の頃に発明されたという設定で、「ぜんまい」と「てこの原理」を利用した倍力機構つき自動服というのはいかが?...もうとっくに発表されていそうだけどね。

  4. それほど大げさなことを言わなければ「電動アシスト自転車」などは「部分的に実現したパワード・スーツ」の一種と言って良いのではなかろうか。


バカメと言ってやれ[ばかめ・と・いって・やれ](参考)

  1. 某有名宇宙戦艦ものでのセリフとして良く知られているが、モトネタは第二次大戦末期のアルデンヌの戦い(バルジの戦い)においてバストーニュに立て篭もった連合軍司令のセリフから。

    圧倒的に押し寄せるドイツ軍からの降伏勧告に対して“Nuts”と回答したのがそれ。Nuts=“石頭の大バカ野郎”という意味のスラングである。またNutsには男性の睾丸という意味もあるので、この場合戦争状態であることを考慮に入れて、より口汚なく“きん○ま野郎”と訳すのが適当であろう。

  2. ところで、某有名宇宙戦艦ものの海外版では“きちんと”Nutsと翻訳(復元)されていたのかな??

バーゲンホルム博士[ばーげんほるむ・はくし](ファーストレンズマン)

  1. ネルス・バーゲンホルム。厳密には実用化モデルの開発者というべきだが、一般には無慣性航行エンジンそのものの発明者として名高い天才技師。奇異な行動が多く、一種の霊感のようにして天才的着想を得ることもしばしばであった。実際、無慣性航行エンジンについても考察・検討の結果ではなく、本人の言葉によればある時から突然に“正解を知っていた”という。

  2. 父親はヤルマル・バーゲンホルム博士、母親はオルガ・ビョルンソン博士でともに有名な核物理学者であり、大発明をものにする上での経歴上の資格も申し分ない。
    しかし実際はアリシア人の精神力によって形成された疑似肉体と人格による存在で、アリシア人のオーバテクノロジーを地球人へ伝えるために作られた人物である。よって両親を含め全ての経歴(おそらく数代に遡って)は、アリシア人によって慎重に創作されたものであろう。

バーゲンホルム機関[ばーげんほるむ・きかん](銀河パトロール隊)

  1. レンズマンシリーズにおける超光速航行エンジンの呼称。全ての恒星間宇宙船に使用されている。

  2. アリシア人によるオーバ・テクノロジーの“おすそわけ”により実現した。

パーセク[ぱーせく](参考)

  1. 天体間の距離を表すのに使用される距離の単位。綴りはpersecで、その名の通り観測される視差が1sec(1秒=1度/3600)になる距離を言う。
    1パーセク=約3.26光年=約30857×10の12乗メータとなる。

  2. SF作品では同様の単位として“光年”が普及している為やや影が薄いが、現実の天文学の現場では結構使われているそうな(アシモフの科学エッセイによる)。

  3. レンズマンシリーズでは時々お目にかかる。(しかしながら、そもそもレンズマンでは星と星の距離に関しては誠に鷹揚と言うか“良く分からない”ケースが多いのでやっぱり冷遇されている?!。)

ハードSF[はーど・えすえふ](参考)

  1. 科学的正確さを重要視するSF、または科学的要素をストーリーの重要な要素として取り入れたSFのこと。

    ベルヌのころの古典的な「科学小説」では「実現可能な未来」を予測したり警告したりするのが目的であった。「科学的に正確でありたい」というスタンスこそ似てはいるが、現代SFの1ジャンルたるハードSFでは「新鮮な科学的アイデアをポイントを外すこと無くずんずん拡張していくことにより、いかに驚くべきストーリー,驚くべきヴィジョンを提示できるか」に力が注がれる。

  2. スペースオペラ的趣味とは対極に位置する作品と思われがちであるが、必ずしもそうではないということは石原博士の「惑星シリーズ」やシェフィールドの「マッカンドルー航宙記」などを読めば明白である。


反動推進駆動系[はんどう・すいしん・くどうけい](銀河辺境シリーズ)

  1. 「慣性駆動系」に対する用語。

  2. 「機体の後方へ何かをすっ飛ばすことにより得られる反動で前進する」原理で作動するエンジンのこと。このとき「後方へすっ飛ばされる」ものを「推進剤(プロペラント)」という。

  3. 早い話がロケットエンジンのこと。銀河辺境シリーズにおいては推進剤として氷を積み込むシーンが出てくるので、ここのロケットは「水蒸気」(つまり高温・高圧の湯気)を吹き出して飛んでいるのである。もちろんヤカンの湯気とはパワーが段違いであるが
    現在のように灯油(の一種)を燃やして飛ぶほど「端迷惑」でも「無粋」ではないものの、宇宙空港の傍では洗濯物が乾かなくて大変だろうなあ...

    ブラッドベリの短編には、ロケット好きの少年が連れ立って宙港にロケットの打ち上げを見に行くというシーンが出てくる。
    銀河辺境シリーズの宇宙にもそんな少年達は沢山居るに違いないが、きっと全員ぬれねずみで風邪でも引いて帰ってくるのであろう。(という訳かどうか知らないが、銀河辺境シリーズにおいても最初の離陸には慣性駆動系を使用することになっている様である)


反応兵器[はんのう・へいき](参考)

  1. SFアニメーション作品などにおける核兵器の別称、と思われる。

  2. ご存知の様に歴史的事情の為、我国では、(年少の子供も見るであろう)娯楽アニメーション作品中の主人公が「核兵器」を使用するのはためらわれる。

    しかしながらストーリの必要とするところにより、核兵器並みの破壊力を持った兵器を登場させたい場合もある。このような場合に、あからさまに「核兵器」と言う代わりに一種の言い換えとして「反応兵器」という名称が使われている、と推定される。

  3. 最近SFおよび一部架空戦記ものなどにおいて使用例が見られるが、おそらくは、SFTVアニメーション「超時空要塞マクロス」で使用されたのが始まりと思われる。

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ヒステリシス特性[ひすてりしす・とくせい](参考)

  1. 入力がある範囲を越えると、入力に対する出力の特性が切り替わってしまうような特性のこと。このため、入出力特性をグラフにすると往路と復路で経路が違うためぐるりとループを描くような特性が得られる。

  2. 装置が安定に動作するために、意図的にヒステリシス特性を持たせることもある。たとえば比較回路(コンパレータ)の「しきい値」が常に固定であるような場合、しきい値付近の入力に対しては出力が不安定になってしまう(アナログ信号には多かれ少なかれ雑音が混入しているため)が、しきい値に意図的にヒステリシスを持たせてやると、このしきい値の差が一種の不感帯(小さな振幅に対しては動作しない)として作用し、全体として安定するという効果が得られる。

  3. 青井先生、質問いただいてからポンっと20年ほど立っちゃいましたが、これで回答になっておりますでしょうか?


秘密の波長[ひみつ・の・はちょう](参考)

  1. ほかの用途には使用が禁じられており、誰が使用しているのかが秘密のチャンネル(帯域)のこと。大抵の場合は傍受不可能ということになっている。

    秘密の波長の一つや二つ割り当てが無いようでは、一流の情報員とは言えませんな。

  2. ところで、電波の波長とアンテナの形式・サイズというやつは物理法則による厳密な関係があって、使用する電波と無関係にアンテナの形式やサイズを決めるという訳にはなかなか行かないものである。
    このため、その筋の専門家が軍艦や軍用機の写真を見ただけで、レーダの大体の周波数帯やら形式やらが分かってしまうものらしい。

    おまけに、電波というやつは波長の長いのから短いのに向かって1系統しかないので−−−たとえ秘密の波長というのがあったとしても−−−大体の帯域さえ判明してしまえば、後は根気良くスイープしていれば何時かは見つかってしまうということになる。こうなってしまっては秘密の波長もへったくれも無く、まったくつまらない世の中になってしまったものである。まあ、こうなっては時間軸をずらして(つまりいつ通信するか分からない様にして)高速・短時間で送信するなどし傍受を防ぐしかない。

    ちょっと話題がズレるが、「月は無慈悲な夜の女王(byハインライン)」のなかで、一旦録音した音声を数倍の高速で再生し、メッセージを送信するというシーンが出てくる。これなど現在の高速秘匿通信のイメージを先取りしているとも言えるシーンで、さすがはハインラインですなあ。(電話回線の伝送帯域を多少無視しているような気もするけど、人間の音声の冗長性を考えるとまあ不可能でもないかな。)

  3. 実際には、波長の極く短い帯域の場合極めて限定した距離しか届かない(PHSの基地局をそこいらじゅうに作らなければならないのはこのため)ので、これを上手く利用してやればある程度傍受を防ぐことは可能である。
    また別の案として、思いっきり広帯域な変調をかけるという方法もある。デジタル圧縮が施されている場合、受信が不完全だと元に戻すのも一苦労だろうから、ようするに完全な形で傍受されなければそれで良い、という考え方である。

    これに暗号化技術を取り入れれば、なんとか実用的な秘匿通話になるように思える。どんな暗号も時間を掛ければ解かれてしまうのだろうが、現在のようにめまぐるしく状況が変化する社会では「解読にある程度手間の掛かる暗号」でさえあれば実用性があるといって良かろう。


ヒューゴー賞[ひゅーごー・しょう](参考)

  1. 現代SFの父ヒューゴー.ガーンズバックを記念して設けられた「年ごとの最優秀作品」に送られる賞。ワールドコンに参加するファンの投票で毎年決定される。一応アメリカではもっとも権威あるSF賞という位置づけらしい。さすがは多数決と民主主義の国ですな。

    日本からの参加者ももちろん投票資格があるが、なにしろノミネート作品は翻訳されてないものが大部分なので、大抵は投票できず...まことににもったいない。
    日本から参加する時には「ヒューゴーの投票資格が無い代りに参加費がちょっぴり安い」というオプションが選べると良いのだがなあ。

  2. 我国では「星雲賞」がこれに該当する。
    ところで「星雲賞」を英語に直訳すると「ネビュラ賞」になっちゃうので、海外のファンからは「紛らわしくて、面白い」と変な評判をとっているそうな。
    しょうがないけどね。


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ファーストレンズマン[ふぁーすと・れんずまん](ファーストレンズマン)

  1. レンズマン・シリーズ第5作。

    レンズマン・シリーズ正統4作と「三惑星連合軍」とをつなぐブリッジとして書かれた。小説としての出来栄えは正統4作には及ばないものの、決して悪い出来ではない。

  2. 最初にレンズマンとなったバージル・サムスのこと。人は彼を、心からの尊敬を込めて“ファーストレンズマン”と呼ぶのである。

  3. スターウォーズ・エピソード1のタイトルは「ファースト・ジェダイ」に違いない、と勝手に予想していたら見事に外れてしまった!

フェイドン[ふぇいどん](宇宙のスカイラーク)

  1. “宇宙のスカイラーク”のラストで登場。コンダール国から送られた品々の中に入っていた美しい宝石。ほとんど透明だが、自ら澄んだ青の光を放つ。
    一種の“不働物質”で、一切の加工・研磨を受け付けないため、産出したそのままの姿で用いられる。

  2. これもまたスペースオペラ的スーパー物質であるが、ラスト近くになって唐突に登場するため、単なるお飾りで終わっている。“宇宙のスカイラーク“が執筆された時の状況を考えると、次回作を書くための複線とも思えない(スミスは掲載先のあてのないアマチュア作家に過ぎなかった)。執筆完了間際になって”おまけ“として付け加えられたのであろう。

フェナクローン(人)[ふぇなくろーん](スカイラーク3号)

  1. "スカイラーク3号”における悪役宇宙人。
    一応、非ヒューマノイド型(非人類型)ということになっているが、両手・両足・頭が一つ胴体の上に付いており、最近のSFに登場していれば、間違いなくヒューマノイド(もしくは亜ヒューマノイド)に分類されたであろう。

  2. スカイラーク2号+惑星オスノームの戦力では対抗できないほどの実力を持った、宇宙戦闘帝国。
    「良いフェナクローンは死んだフェナクローンである」と言える位の悪逆種族(ただしスカイラーク3号においてのみ…)。

  3. 作者のお気に入りらしく、その後のエピソードにおいてもちょくちょく登場する。最初は華々しくデビューしたものの、何しろ比較的初期の悪役なので“強さ”も“弱さ”も手頃なためか、たいていは新しく登場した悪役の引き立て役である。シリーズを通して、“宇宙戦艦ヤ○ト”シリーズにおけるガミ○ス帝国のような役回りをもらっている、実は少々かわいそうな悪役。

May the force be with you[ふぉーす・と・ともにあれ](スターウォーズ?)

  1. 「宇宙軍(Space-Force)のSFクリスマスに参加しよう!」と言うこと。

  2. 偉そうなことを言っていながら、筆者自身はここ数年参加できていません。
    行きたいんですけどねぇ....。

負の球体[ふ・の・きゅうたい](レンズマン・シリーズ)

  1. 人工的に「負の物質塊」を作り出し、これを牽引ビームで引っ張って目標(相手の基地などの固定目標)に命中させるというもの。
    現在我々が想像するような「反物質爆弾」とは少々異なり、物質/反物質反応による効率100%の物質→エネルギー転換は発生せず、接触したところから粛々と無に帰していくというもので、当然ながら物質的なあらゆる防御手段は通用しない。

    グレーレンズマンにおいて初登場するが、その後も「決戦」にはちょくちょく登場する銀河パトロール隊の最終兵器の一つである。

  2. 複雑高度なメカの内部で通常の物質を人工的に「負の物質」に変換するシーン--不気味な負の球体(光を反射せず黒々とした暗黒の球体に見えるところなど、ブラックホールをも連想させる...)が機械の内部で徐々に成長していく---など、決戦に向け徐々に雰囲気が盛り上がっていき、あたかも良くできた特撮映画のようで実に楽しい。
    こういう映画的な配慮があちらこちらにちりばめてあるところが、レンズマンが今読んでも十分楽しい所以ですねえ。


フューチュリア[ふゅーちゅりあ](キャプテンフューチャー・シリーズ)

  1. フューチャーメンが「物質生成の場」で得た「エネルギー/物質転換」技術を全面的に利用して、人工的に作られた惑星。
    当初はもっぱら水星人の移民先として計画されたが、太陽系政府による一大プロジェクトであることから、恐らく他惑星人に対しても段階的に開放されたと思われる。

  2. その建造の様子は「フューチャーメン暗殺計画」に少しだけ出てきます。

  3. キャプテンフューチャー執筆時(1940〜)は、いわゆる「ニューディール政策(1933〜)」が不成功に終わったと認識されていたころと思われるが、それまでは全米で大規模な公共事業が実施され、おそらく大々的に宣伝されていたであろう。
    この「フューチュリア建造」計画そのものはいかにもハミルトン好みの大スケールなアイデアだが、「ニューディール政策」の巨大公共事業がヒントになった可能性も....ある。


プランジャ[ぷらんじゃ](宇宙のスカイラーク号)

  1. スミス作品において、宇宙船の操縦席の操作盤やヘッドセットの上に、リレーなどと共にくっついていることが多い。
    元々はシリンダの中で上下に動く棒状の機械部品のこと。転じて、ストロークの深い押しボタンスイッチやサーキットブレーカ等の電気部品もプランジャと呼ばれることがある。

  2. スミスが登場させているのは後者の電気部品の方であろうと思われるが、操作盤やヘッドセットの上にピストンやシリンダが並んでいるというのも、クラシックSFらしくて面白い光景ではある。(あちこちから蒸気なんぞを吹いていたりすると尚嬉しいが…)

ブリタニア号[ぶりたにあ・ごう](銀河パトロール隊)

  1. 「もしもデータを持って帰ってこれたら、十年分のキャリアを飛び越して1年目から本当の艦長にしてやる。」との甘言に乗せられ、新人レンズマンのキムボール・キニスンが最初に指揮をとった宇宙艦。

    ご存知のように最初の航海で破壊されたため、キニスンがこの艦の正式な艦長に任命されることは遂になかった。

  2. 一種の実験艦で、パトロール隊のそれまでのスーパードレッドノート級宇宙艦よりも巨大だが、積載能力のほとんどを防御スクリーンと牽引ビームに充ててあり、Q砲以外にこれといった攻撃用兵装を持たない。 ボスコーン船を破壊して各種データを取るために建造された。

    新しいアイデアに満ちた設計だが、同時に全く実績のない艦のため、ベテランのレンズマンを失う可能性を恐れたパトロール隊本部により新人が選ばれた、というのが実状であった。

    パトロール隊本部にとって、キニスンは「非常に優秀だがド新人でもあるし、失ってもさほど惜しくない人材」と思われたということだが、その後の展開を見ても分かるように「史上もっとも得難い人材」だったのだ、くわばらくわばら、責任者出てこぉい!。

  3. おまけに、その後このような艦種は建造されていないところを見ると、公式には失敗作という扱いだったらしい。


プレセッション[ぷれ・せっしょん](参考)

  1. 「回転体に外部から力を加えて、回転軸に直角な任意の方向へ回転させると、押したはずの方向とは90度ずれた方向に軸が動いて行く」という現象。
    一見すると不思議な現象であるが原理は簡単で、回転ベクトルの単純加算によるものである。

    上記をXYZ直交座標系を例にとって説明すると以下のようなことになる.. 今、次のようなXYZ空間があったとする。
    1)XY水平面のY軸は手前から奥に向かった軸,X軸は左から右に向かった軸とする。
    2)Z軸は下から上に向かっている軸とする。

    このような場合、回転軸がY軸に平行で回転方向が時計周りの回転体を考えると、回転体の回転ベクトルはY軸と同じ向き(極性)となる。
    この回転体の軸をXY平面に平行に右から左に振る(回す)ように力を加えてやるとすると、この追加された運動=Z軸周りの回転であり、その回転ベクトルはZ軸に平行で同じ向き(極性)となる。

    以上のような2つの回転ベクトルの加算結果であるが、平面状のベクトル加算と同じに扱って良く、この場合は元の回転体の軸に対してやや上向きのベクトルとなる。つまり外部から力を加えた後の回転体の軸は元の方向よりも上向きになる。回転体に最初に加えた力とは直角方向に軸が動いてしまうのである。

  2. ところで、何でこんなことを長々書いているのかというと、二次大戦の撃墜王たる坂井三郎氏が著書やインタビューで時折言及されている「左ひねり込み」という技に、このプレセッションが関係が有るような気がするからである。

    航空ファンなら良くご存知と思われるが、「左ひねり込み」とは二次大戦における海軍航空隊の秘技のひとつであり、特殊な操作で左へ左へと回り込むことで高度を落とさず小さな半径で旋回する(通常は航空機が旋回すると必ず高度が落ちてしまう...)というものである。撃墜王・坂井氏はこの技の名手の一人で、10機以上の敵機に囲まれた時にもひたすら左旋回で敵弾を避けつづけ、遂には生還したという驚くべきエピソードの持ち主である。

    さて、零戦が左旋回することの長所として、従来は「右腕でスティックを倒す時に力を込めやすい」「零戦のプロペラの回転が操縦席から見て時計周りなので、左旋回時の機体の傾く方向がプロペラの反トルクの向きと一致し、運動しやすい」などの理由に帰されることが多かった。
    以上でも十分にも思えるが、これにプレセッションの効果を取り入れると「左旋回時には機首を上向きにする力が加わる」ことになり、「旋回時に高度が落ちにくい」という「左ひねり込み」の特長に合致するのである。

  3. 今までだらだらと書いてきたがもうちょっとお付き合い願いたい。
    プレセッション現象はSFにも多いに関係があるからである。

    プレセッションは角運動量をもつもの全てに適用されるので、例えば自転式宇宙ステーションやスペースコロニーの姿勢制御を行う場合には、非常に大きな影響がある。単純にバーニアジェットを吹かすだけでは「あさっての方向」に傾いてしまい、ニッチもサッチもいかなくなること請け合いである。
    ジ○ン公国のコロニー落し作戦が失敗(思った場所には落ちなかった)のも、連邦軍の防御射撃による爆発などが一種の偏心トルクになって、自転するコロニーの姿勢を思わぬ方向に捻じ曲げてしまったとは考えられないだろうか?

    また一連の木馬形戦艦には自転式の人工重力区画(居住区?)が組み込まれているようであるが、この回転区画の持っている角運動量によるプレセッション(船首を振るたびに発生する)も、馬鹿にできないトルクになると思われる。
    構造によっては船体をねじるように作用する可能性も有るし、設計には非常に神経を使うことであろう。ことにホワ○トベース型のように回転区画を船体の左右に持っている場合は特に問題である。区画の回転方向が同じであれば、それぞれに発生するトルクが合わさって船首を変な方向に振ってしまうし、反対に回転方向が食い違っていれば、今度は船体をロールさせるような力が作用しかねないからである。

    実際には良好な運用実績だったと言われ、また後継艦が次々建造されている事実から見ても、上記のような問題は解決済みであった訳だが、どのようにして回避しているのか実に興味深い問題である。


プロトン砲[ぷろとん・ほう](キャプテンフューチャー・シリーズ)

  1. 素粒子の一種である「プロトン(陽子)」を発射する武器のこと。コメット号の主兵装で、船首両舷に各1基1門,計2門が装備されている。

    照準は肉眼+手動のようだが、おそらくオットーとグラッグには、コメットのFCS(火器管制システム)から直接ジャックインできるようなコネクタが目立たない位置に付いているのではなかろうか。なまじコメットの速度が速いだけに、移動目標に命中させるのが並大抵の苦労でないことは直感的にも想像が付く。

    キャプテンフューチャー・シリーズに登場する宇宙艇が装備する武器は「熱線砲」が一般的のようだが、原作によるとコメットのプロトン砲はそれらよりも射程・威力ともに数段勝ると書かれている。

  2. ところで陽子は正に帯電しているから、これを派手に撃ち出せば船体の方はどんどん負に帯電していくのが道理で、何らかの方法でこれを打ち消していかねばならない。コメットに装備された彗星カモフラージュ装置の由来は案外ここんところではないか?と思っているのだが、さあどうでしょう??

    もちろん、出撃前に「圧縮・陽子カートリッジ弾」を専用に積み込んでいるという設定もOKである(こんな時、何でもありと言うのは強いです...)。
    ...こちらの方が「燃える」設定かも。

  3. 「熱線」は光線の一種であろうから、単純に考えると伝達速度は「光速」ということになる。
    一方「プロトン砲」の射線の場合は光子以外の粒子を撃ち出すのであるから光速未満であり、恐らくはもっとずっと遅いはずである。

    以上のことから、プロトン砲の方が命中した時の威力は大きくとも「熱線砲」より多少は回避し易い筈で短中距離での撃ち合いならコメットが不利なようにも思われる。
    ところが、ご存知のように原作を読む限り「実戦」の結果はコメットの圧勝で、先に延べたようなハンディキャップは感じられない。これは「相手のビームが命中しないが、こちらのビームは百発百中である」または「相手のビームが命中しても全然平気であるが、こちらのビームには相手が耐えられない」と考えるほかはない。

    最初の方で延べた「オットーとグラッグに照準データをジャックインするコネクタが付いているのでは?」という推測は前者を成立させる場合の前提条件とも言える。

    後者の場合は、コメットの装甲が他のそれと比べて異常に装甲強度が高いことを示すものだが、本当にそうなのだろうか?
    答えは原作に載っていて、「謎の宇宙船強奪段」巻末でハミルトンが説明している通り、コメットの外壁は「太陽のフレア」にも耐えられるような耐熱性能を付与されていることになっている。目的が目的だけに船殻のすべてがこの耐熱性能を持っていると考えられる。これは「熱線砲」に対しても非常に有効であろう。

  4. ところで、コメットの装甲性能が強力であることは、全く別の観点からも主張できる。

    戦闘艦の場合、自分の主砲と同威力の攻撃に耐えるように設計するということをご存知だろうか?
    これを適用すると、コメットの場合は「プロトン砲の直撃に耐える船殻」を持っている筈になり−−−数段威力が有るという記述を信じると−−−これはまあ不死身の怪物と言って良いのではないだろうか。

    コメットと撃ち合うことになった船のブリッジでは「なんてこった!あの船は戦艦並みのビーム砲を持っているのかぁ!!」だの「直撃の筈だぞ。フューチャーメンの船は化け物かぁ!」なーんてお約束の会話が交わされているのじゃろう。

  5. ところで、プロトン砲ってどのくらい強力なんでしょう?

    同じ素粒子砲の一種である「電子ビーム砲」と無理矢理比較してみたところ、ちょっと面白い結果になった。

    陽子は電子に比べて約6000倍重たいから、単純に計算すると「6000の3乗根=約18」という訳で、陽子を打ち出す砲は電子のそれに比べて口径で18倍以上と考えられる。

    これはどの程度の違いかと言うと、片方を1インチ(2.5センチ)砲とすれば、もう片方は18インチ(46センチ)砲ということである。ちなみに2.5センチ(25ミリ)砲と言えば、軽戦車の搭載砲であり、一方の46センチ砲は言うまでもなく「大和級戦艦」の主砲である。これはもう豆鉄砲と大筒以上の違いがあると言って良い。


プロパーSF[ぷろぱー・えすえふ](参考)

    直訳すると「正統SF」だが、むろんこの他に「異端」のSFがあるという訳ではない。(本当にあったら、ちょっと読んでみたいような気もするが…)

    ミステリで「本格ミステリ」および「変格ミステリ」と分類されているのと「同じノリ」で「本格SF」と意訳されることが多い。

    「大人の観賞に耐えるSF作品」、またはファンタジーでない「ストレートなSF」程度の意味にとっておけば良い。

噴射管[ふんしゃ・かん](キャプテンフューチャー・シリーズなど)

  1. 宇宙船(宇宙艇)のエンジン(サイクロトロン)の主要部品の一つ。
    サイクロトロンで発生した高圧・高速のガス流を所望の方向へと噴出させ、必要な方向の推力を得るための部品であり、実在のロケットでは「ブースター」に相当すると思われる部分。

  2. 実在のサターン・ロケットの場合「ブースター」は見るからにごついベル形であるが、クラシック宇宙活劇に登場する宇宙船のそれはストローを束にしたような形状である。パルプ雑誌時代の宇宙船のエンジンは、何故このような形に描かれることが多かったのであろうか?

    記憶に頼った想像で申し訳ないが、このモデルというか原イメージは「ゴダートのロケット」ではなかろうか。確かあれのブースター部がかなり細長い形だった筈である。もちろん単純なストロー型ではなく、燃焼室の直後の内壁はきちんと漏斗形に整形してあったと思うが、それでも「噴射用の管」というイメージを持つには十分であったのだろう。
    ゴダートのロケットが打ち上げられたのが1926年である(これはガーンズバックがアメージング誌を創刊した年でもある)から、当時としてはゴダートのロケットは「最新かつ現実に実現した最初の宇宙船」であった。現在の様に豊富な資料のない時代ではほとんど唯一の「ロケットに関するもとねた」だったのだから、パルプ雑誌のイラストレータたちに与えた影響は大であったろう。

    それともう一つ、当時の航空機のエンジン(レシプロ星型)の排気管の形も大きな影響を与えていると思われる。
    宇宙英雄群像やSFファンタジアなどに掲載されている野田コレクションを見ると、パルプ雑誌の表紙絵掲載の宇宙船には、当時の飛行船や航空機からデザイン・ヒントを得たと思えるものが少なくない。 現在の目で見ると「単純に飛行機から翼を取り去っただけ」というのも中にはあり、ごていねいにも機首部分にレシプロ星型エンジンとおぼしき機械がそのまんまくっついていたりする。こういう「レシプロ星型原子力エンジン」の場合、まるでガソリンエンジンの排気管そっくりな噴射管が書き加えられても不思議ではない。
    で、ひとたびこういう「当時としては斬新な」デザインが発明されるや、そこいらじゅうに似たような「いただき物」のデザインが蔓延するという現象は現在でもよくあることで、このなかから排気管のイメージが最終的に生き残ったのではないかな?...と推察されるのである。
    当時の挿し絵に登場するロケットの噴射管が束(クラスター)になっているのも、もとがガソリンエンジンの排気管と思えば納得できる。

  3. SF英雄群像に掲載のCF誌上の図解を見ると、綴りは「Rocket-Tube」であって「Booster」や「Nozzle」ではないところから、本当に直線的で細長い「ただの管」のイメージで良い様である。

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ベクトル[べくとる](参考)

    「大きさ」と「方向」を持っている量のこと。
    例えば人工衛星の「速さ」は速いか遅いかといった「速さの大きさ」だけの量だが、軌道上の「速度」はどちらの方向を向いているかを加味した「方向のある速さ」を対象とする。
    前者のような大きさのみの量を「スカラ量」といい、後者のような方向のある大きさを「ベクトル(英語読みではベクタ)量」といい、(4,2)のように行列で記述する。

ベム[べむ](参考)

  1. 綴りはBEM、Bug-Eyed-Monsterの略。直訳すると「昆虫目玉の怪物」となるが、その昔パルプマガジン上で跳梁跋扈した宇宙怪物たちを指す語。多くが昆虫のような複眼の持ち主だった(というイメージを持たれている)ため、このような呼称ができた。

  2. 現在では、「宇宙怪物」の登場する作品の減少に加えて「モンスター」「エイリアン」といった平凡な語に押されており、用例は徐々に少なくなってきている。古手のファンにとっては少々寂しいことであるが、この用語もそろそろ「死語」になってきたということなのであろう。

ヘリポート[へり・ぽーと](参考)

  1. ヘリコプターの離着陸場のこと。

    東京近辺では新木場に東京ヘリポートがあり、報道用ヘリと警察消防用の機体が多数駐機している。

    また、羽田空港の端の方にも新聞社のハンガーがあり、ここからも各社の機体が離着陸するさまを見ることができる。

    現代のヘリコプターはほとんどターボプロップ・エンジン(ジェット・エンジンの一種)装備なので、ヘリポートは石油ストーブの臭い---ジェット燃料は灯油の親戚である---に満ちているところである。

  2. 実は、新木場のほかにも芝浦ヘリポートというのがある。場所は品川と田町の間で運河沿いにあるが、一般にはほとんど知られていない。土地のタクシー運転手に聞いてもまず知らない。

    芝浦ヘリポートは、とあるビルの屋上に鉄骨を立て足場と成し、その上に甲板を張ってヘリポートに仕立て上げた物で、全く邪魔物のないフラットな甲板上に上ると、レインボーブリッジを挟んでお台場が見渡せるという実に素晴らしいロケーションである。また遠目にはちょっとした航空母艦という雰囲気もあり、筆者のお気に入りの主張先の一つである。

    芝浦ヘリポートは高速1号羽田線沿い(芝浦出口付近)にあり、高速道路上からも駐機している機体が(ちょっぴりだが)見える。機会があったら一度眺めてはいかが。

  3. 羽田や成田のような旅客機の飛行場とはちがって、報道用ヘリコプターの離着陸場にはこじんまりとした独特の雰囲気がある。随分前から、筆者は「銀河乞食軍団に登場する金平糖錨地の元イメージは報道用ヘリコプタの駐機するヘリポートではないか?」と考えているが...


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ホーマン軌道[ほーまん・きどう](参考)

  1. 惑星から他の惑星へ探査機などを送る際に、最も燃料を消費しないとされる軌道で、内側の惑星の軌道に対しては外接し、かつ外側の惑星の軌道に対しては内接するような楕円軌道のこと。

  2. 燃料を節約できる代りに到達時間は非常に長くなるらしいので、惑星間連絡船や旅客船にはたぶん適用できない。
    その代わり、のんびり飛ぶのが許される「定期便輸送船」や「水素タンカー」のようなものには最適と思われる。


ホレーショホーンブロワーの生涯とその時代[ほれーしょ・ほーんぶろわーの・しょうがいと・そのじだい](参考)

  1. C.N.パーキンソン著,至誠堂新書刊。そう、あの「パーキンソンの法則」のパーキンソンの手によるホーンブロワーの伝記である。もちろんホーンブロワーは創作上の人物であり、本書はパーキンソンのホーンブロワー研究を生かしたお遊びの結果生まれたのである。

  2. それにしても、本書に注がれたエネルギーはすさまじいの一言に尽きる。表紙を開くや否や、ホーンブロワーその人のもっともらしい肖像画(むろんこの本のためにでっち上げられたのに相違ない)が掲載されているのに始まり、ホーンブロワ少年の署名が入った教科書やらバーバラ夫人の肖像やら、思い付く限りの徹底した姿勢が楽しい。
    正伝でおなじみのエピソードはもちろん、作者フォレスタが書いてない部分についても、パーキンソン自身が精密な考証を重ねながら創作して埋めている。

ホーンブロワー外伝[ほーんぶろわー・がいでん](参考)

  1. 早川文庫NV収録。フォレスタ自身によるエッセイなどをまとめたもの。タイトルは「ホーンブロワーの誕生」

  2. 原作の翻訳者高橋泰邦氏によるパスティーシュ。「南冥の砲煙」「南冥に吠える」の2巻が発表されている。いずれもホーンブロワーのアジアでの冒険を描いている。どちらも原作を読んでいることを前提に書かれており、訳者からの日本のホーンブロワー・ファンへの贈り物と言える2冊。ファン必読である。

    前者は最近「光人社文庫」に収録された。

ホーンブロワー・シリーズ[ほーんぶろわー・しりーず](参考)

  1. C.S.フォレスターによる、ナポレオン時代の英国海軍士官ホレイショ・ホーンブロワーを主人公とする海洋冒険小説シリーズ。早川文庫NVで現在も入手可能。

  2. 海洋冒険ものは当たらないというジンクスを破って大ヒットした。ホーンブロワーがヒットした時、類似のシリーズが随分発掘されて本屋に並んだが、今でも生き残っているのは、元祖のホーンブロワー以外ほとんどない。(同じくヒットしたボライソーシリーズも今でも書店で見ることが出来るが、巻数が多すぎるためか、最初の方の巻はほとんど見かけなくなった。)

  3. あまりなじみの無い帆船用語が出てくるが、本文中にほとんど解説が無いのが珠にキズだが、雰囲気として受け止めておくだけでも十分楽しめる。

  4. “銀河辺境シリーズ”や“銀河の荒鷲シーフォート・シリーズ”に多大な影響を与えていることはよくご存知の通り。宇宙艦隊ものを読むための必読基礎教養。

翻案[ほんあん](参考)

  1. 外国語を日本語に変換するという意味では翻訳とほぼ同じなのだが、「ついでに」物語の背景や主人公の名前などを読者の馴染みが良い様に日本に(日本人の名前に)引き写して仕上げるという作業。もしくはそのようにして作られた作品のこと。

    黒岩涙香などの手によって明治の中頃などには盛んに行われたが、むしろこの頃は海外作品を翻訳する時のお約束みたいな物だったと考えるべきであろう。

  2. 史上もっとも有名な翻案は「荒野の7人(黒沢明の7人の侍を西部劇にした)」か、それとも「スターウォーズ(黒沢明の隠し砦の3悪人を宇宙活劇にした、とも言われている)」かな?



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